発達障害 岩波 明:著 文春新書 [ASD関連図書]
2017年3月20日発行で、成年期以降の発達障害について書かれた本としては、いちばん新しく、発達障害とは何か、という疑問や興味を持つ人に、良く整理されて理解しやすく書かれている。
特に、成年期以降に困難が生じやすいのは、知的な能力が高いために、発達障害が見逃がされてきた人たちについてであり、そういう人たちが主にASDかADHDであることを説明し、どんな問題を抱えているのか、どのように解釈すればいいのかが、よくわかる本であると思う。
第1章から第4章までは、ASD(自閉症スペクトラム障害)とADHD(注意欠如他動性障害)について、及びそれらの共通点と相違点、映像記憶や共感覚、学習障害についてなど、豊富な事例を紹介している。サヴァン症候群はテレビドラマなどで知られるようになった障害であると思うが、それがどのようなメカニズムで起きるのか、「文字に色を感じる」「音に色を感じる」「形に味を感じる」などのシネステジア(共感覚)のために、生活に支障を生じたり、極端な偏食になったりするメカニズムについても説明してくれている。
第5章では、天才と呼ばれた著名人の中の、発達障害と言われている人たちについて、その根拠を説明してくれている。
第6章と第7章では、アスペルガー症候群への誤解が広まった理由について述べ、最近の小学生や少年の殺人事件を例に引き、精神分析の解釈をしながら、本当は発達障害ではなかったと思われる例と、本当に発達障害であった例を説明してくれている。
第8章では、発達障害をどう支援するのか、著者が関わっているデイケアの方法を紹介し、成功例を示してくれている。
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発達障害は精神科を受診すれば診断してもらえると多くの人が思っているかもしれないが、発達障害の客観的な診断方法がみつからない限り、判断や診断は医師の主観によるところが大きく、間違った診断がなされていることが多いという現状がよく分かる。
また、少年犯罪が起きた場合、検察側の思いと、少年を弁護する側の思いが交差し、発達障害ではない場合でも、発達障害の診断をつけてしまうという現実もあるそうだ。
それらと、マスコミのセンセーショナルな報道と、不可解なことは発達障害という理由をつける事によって納得したいという、多くの人たちの思いが交錯して、発達障害への誤解が広くなってしまったのだろう。
少年犯罪の発生率は、発達障害と診断された少年群と、発達障害ではない少年群とを比較しても、なんら差がないことは、統計上明らかになっている。
多くの人たちに、発達障害とは何かという知識を持ってもらい、正しい支援が行われるようになってほしい。
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